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知る人ぞ知る日本サッカー界のレジェンド、ヴィッセル神戸 松浦紀典さんに聞く。「ホペイロ」とは、どんな仕事ですか?

松浦紀典

プロサッカー選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、彼らのスパイクやユニフォームなどの用具を管理し、足元からチームを支えるホペイロという仕事。2026年にヴィッセル神戸へと加入したチームスタッフの松浦紀典さんは、日本人初のプロホペイロとして30年以上にわたり選手たちのパフォーマンス向上に貢献し続けている。「選手ファースト」を貫き、勝っても負けても「いつも通り」の仕事をする。そんな松浦さんに、ホペイロの仕事内容やその哲学、そして間近で感じるヴィッセル神戸の強さについて聞いた。

ホペイロの松浦紀典さん

松浦さんがプロのホペイロになったのは1993年。同年に開幕したJリーグとともにキャリアを歩んできた。

——まずはじめに、ホペイロとはどのような仕事なのでしょうか?

「簡潔に言うと、選手の身の回りのものをお世話する仕事ですね。ホペイロはポルトガル語で『用具係』という意味で、選手のスパイクやユニフォーム、キーパーグローブなどを管理し、メンテナンスや調整を行っています。選手たちはちょっとした違いにも強いこだわりを持っているので、彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、ハード面からチームを支える役割です」

——ホペイロの仕事に興味を持ったきっかけは?

「もともと僕も若い頃はプロサッカー選手を目指していたのですが、実力的になかなか難しいかなと感じていました。そんなとき、サッカー専門誌に海外のホペイロの仕事が小さく紹介されていたんです。『こんな仕事があるのか』とはじめて知り、興味を持ちました」

——当時、日本にはホペイロという仕事はまだ存在していなかったんですか?

「そうですね。Jリーグがはじまる前、読売クラブ(現・東京ヴェルディ)に所属していたカズさん(三浦知良選手)が、ブラジル時代の経験をもとに『ホペイロがいないとクラブとして発展できない』という話をされて、ブラジル人のプロホペイロの方が加入したんです。その後にJリーグがはじまるタイミングで、彼がアシスタントを募集し、一番弟子にしてもらいました。そこから30年以上にわたってホペイロとして仕事をしています。実は東京ヴェルディ時代の2001年頃、チームの胸スポンサーが決まらない時期があって、そのときにサポートしてくれたのが楽天グループの三木谷浩史さんでした。20年以上が経ったいま、自分が楽天グループのヴィッセル神戸にいることに不思議なご縁と感謝を感じます。クラブに貢献することで、あの時の恩返しをしたいですね」

私物のユニフォームを見せてくれる松浦さん

今回の取材のために私物のユニフォームを持ってきてくれた。

楽天グループのロゴが入った2001年頃の東京ヴェルディユニフォーム

コンディションのよさからも、松浦さんにとって大切なユニフォームであることが伝わってくる。

——ホペイロとして働くうえで、大切にしていることを教えてください。

「この仕事をはじめてからずっと意識しているのは、『選手ファースト』という視点です。チームにはたくさんのスタッフやコーチ陣がいますが、実際にピッチでプレーするのは、ほかでもない選手たちです。彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できるようにサポートする。それが僕たちの仕事だと思っています」

——ホペイロとしてのスキルは、どうやって磨いてきましたか?

「先ほども話した通り、僕の師匠はブラジル人の方でした。基礎的なことは教えていただきましたが、言葉の壁もあったので、ほとんど見て覚えるしかなかったんです。道具も現在のように充実していたわけではなかったので、たとえばホームセンターに行って2時間くらいウロウロしながら、『何かホペイロの仕事に使えるものはないかな?』と探していましたね。そうやって自分なりに試行錯誤しながら、必要な技術を身につけていきました」

——日々の業務は、どのようなスケジュールで動かれているんですか?

「基本的には、選手やスタッフの動きに合わせるかたちになります。練習があれば選手たちが来る前に準備をして、練習後は後片付けまで行います。選手が身につけるものを扱うので、絶対に忘れ物はできません。何度もチェックをしながら慎重に準備しますし、スパイクを加工するにしても失敗は許されない。遠征があれば、それだけ準備にも時間がかかります。改めて考えてみると結構ハードワークですね(笑)」

——ホペイロとして、松浦さんの目線から見たヴィッセル神戸の強さとは?

「全員が『勝つため』に日々を過ごしていることだと思います。Jリーグ開幕前の初日の練習から、みんなものすごい気迫で取り組むんです。ひとつのプレーに命を懸けるように。それでも練習量が足りないと感じたら、自主練習でさらに追い込む選手もいる。そういった姿勢が強さの秘訣なのだと思います。また、経験豊富な選手がたくさんいて、彼らが若手選手に的確なアドバイスをしているのも大きい。そうした様子を見ていると、チーム全体が底上げされていく理由がわかりますよね」

——これまで30年以上にわたってプロサッカーに携わられてきたからこそ感じる「強いチームの共通点」はありますか?

「僕がキャリアをスタートさせたヴェルディ川崎は、スター選手がたくさんいて、当時は常勝軍団と呼ばれていました。いまのヴィッセル神戸には、その頃とすごく似た雰囲気を感じるんですよね。昨日より今日、今日より明日と強くなるために全力で取り組む。全員で勝利に向かって突き進んでいく姿勢は、強いチームに共通するものなのかなと感じます。また、ホペイロの目線からすると、スパイクの消耗具合や練習着の濡れ方からもチームの状態や練習の強度が分かります。短時間の練習でもユニフォームがびっしょり濡れていると、『今日はかなりハードに取り組んだんだな』と感じますね」

——ホペイロの仕事の醍醐味は、どんなところでしょうか?

「選手たちが普段のトレーニングをケガなく終えられること。そして、試合でチームが勝ったときですね。チームの一員として勝利に関われたことをうれしく思います。ただ、チームが勝っても負けても、自分は自分の仕事をするだけです。常に同じパフォーマンスを出すことが求められる仕事なので一喜一憂してはいけない。そういう意味では強いメンタルが必要なのかもしれませんね。僕は『いつも通り』という言葉をキーワードにして仕事に取り組んでいます」

——将来、サッカーに関わる仕事に就きたいと思っている子どもたちへアドバイスをお願いします。

「もし夢があるのなら、遠回りしてもいいから諦めないでほしい。僕ももともとサッカー界で仕事をしたいと思っていましたが、そこで諦めていたらホペイロという仕事にも出会うことができなかった。どんなかたちで自分の未来が拓けるかは誰にも分かりません。チャンスをつかむためにも、諦めずに夢に向かって進んでいってほしいです」

笑顔で立つ松浦さん

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INTERVIEW & EDIT:Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)
TEXT:Kodai Wada

  • ヴィッセル神戸
    松浦紀典

    ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)で、日本人初のプロホペイロとしてキャリアをスタート。以来30年以上にわたり、選手のスパイクをはじめとする用具の管理・ケアを担い、数多くの選手を支えてきた。スパイクの手入れでは、靴底を専用の機材で削るなど、一人ひとりの足や要望に合わせた細かな加工・調整も行う。2026年よりヴィッセル神戸のホペイロを務める。

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