
ヴィッセル神戸のファン・サポーターにも知ってほしい大事な話。気候変動問題に向き合うために、Jリーグが参入した「Sport Positive Leagues」とは?【1/3】
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楽天グループが掲げる「スポーツとともに、もっといい未来へ。」というテーマと、その行動指針である「Sports for Everyone」「Green for Future」。syncSPORTS by Rakutenでも、これらに関わる取り組みをこれまでに何度か取り上げてきた中、ヴィッセル神戸も所属するJリーグ全体で何やら大きなプロジェクトが動き出すらしい。キーマンのお三方、いろいろ教えてください!
syncSPORTS by Rakutenではいつもヴィッセル神戸の“もっといい未来”について考え伝える記事をつくっているが、今回はいちクラブの枠組みを超えたJリーグ全体のトピック。温暖化が進む現在、よりよいサッカー環境を未来につなげるために、同リーグでは気候アクションをはじめとした様々な試みを行っている。その一環として、イングランドのプレミアリーグも採用している、スポーツ界全体で気候アクションを推進するための仕組み「スポーツ・ポジティブ・リーグ(以下SPL)」への参画を2025年4月22日に表明。これにより、各クラブの取り組みは数値化され、進捗や方向性が一目で把握できるようになっていくという。
SPLについて理解を深めるために今回集まってもらったのは、Jリーグの“中の人”として同プロジェクトの旗振り役をされている同リーグ執行役員(サステナビリティ担当)の辻井隆行さん、ヴィッセル神戸の施設管理部 部長として現場レベルで課題解決に取り組まれている古賀圭紀さん、そしてヴィッセル神戸のホームゲーム運営全体での資源循環性を評価・分析する仕組み「サーキュラリティ評価」を担当されているRECOTECH(レコテック)の大村拓輝さん。異なる立場の当事者3名から話を聞くことで、「SPLとは何か?」「なぜ必要か?」「スポーツの未来にどんな影響をもたらすのか?」といった話を立体的に捉えていきたい。
とても内容の濃い取材となったので、全3回にわたってお届けしていく予定。第1回は、JリーグのSPL参入におけるきっかけのひとつとなったイギリスへの視察を振り返りながら、ヴィッセル神戸をはじめとする各クラブ、そしてリーグ全体の“サステナ現在地”について。

左からヴィッセル神戸 古賀圭紀さん、Jリーグ 辻井隆行さん、RECOTECH 大村拓輝さん。
――本題のSPLの話に入る前に、まずは今回お話を聞く上での前提となる質問をさせてください。大村さんは、気候変動の問題に関わるテックスタートアップ、RECOTECHのメンバーとして活動されていますよね。ヴィッセル神戸に対しては、楽天グループとともに環境対策面のサポートをされているとお聞きしました。具体的には同クラブのホームゲーム運営全体での資源循環性を評価・分析する仕組み「サーキュラリティ評価」の実施を担われていますが、これはどういった経緯ではじまったんですか?
大村「RECOTECHでは『pool』というサービスを通じて、ごみをデータ化し、資源循環を生み出す取り組みを進めています。中でも特に力を入れているのが“資源循環の可視化”という、世界的にも前例の少ないチャレンジです。
そもそも循環率の測り方自体がまだ確立されておらず、いままさにその基準をつくっている最中なのですが、僕たちはこれを社会にとって非常に重要なテーマだと捉えています。そんな想いに共感してくださったのが楽天グループでした。
きっかけは2022年の楽天オープン(国際テニス大会)でした。そこで『何かいっしょにできないか』とご相談いただき、“資源循環の可視化”にはじめて取り組んだんです。これはグローバルで見てもほとんど例のない試みでした。
その後、同社を親会社とするヴィッセル神戸とも連携し、2023年から継続的に「サーキュラリティ評価」に取り組んでいます。現在は最新の結果を整理しているところで、具体的な数値にはまだ触れられませんが、循環率は以前より向上しているという手応えがあります」
――資源循環を可視化することで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
大村「まずは自分たちが理想とする姿に対して現時点でどこに立っているのかを把握できるようになります。そうすることではじめて、目指すべき地点が定まり、ギャップを埋めるための戦略が立てられるようになっていくんです。
2027~2028年ごろに向けグローバルで、CO₂排出量と同様に資源循環の取り組みに関するデータの可視化・開示を義務化する方向で進んでいます。すでに避けられない文脈であることからも、先を見据えて継続的に取り組んでいくことは企業や社会にとって有意義なだけでなく、アドバンテージであるとも言えます」

大村さんは「サーキュラリティ評価」に関わる計測のため、ヴィッセル神戸の本拠地・ノエビアスタジアム神戸に度々通っている。
――ヴィッセル神戸で施設管理部 部長を務められている古賀さんにお聞きします。ホームゲームで「サーキュラリティ評価」に取り組むことで、クラブとしてどのような手応えがありましたか?
古賀「これまでは自分たちが何をどれだけ排出しているか正確には見えていませんでした。それらが『サーキュラリティ評価』によって可視化されることで、何ができていて、何ができていないのかがはっきりしました。強みも課題も客観的に見えてくるので、今後どう改善していくかを考えるきっかけになりましたね。自分たちを見直す上で重要なステップだと感じています」

古賀さんは、ノエビアスタジアム神戸での試合時に展開されるブースなど、様々な実地施策に日々取り組まれている。
――まず一歩を踏み出したわけですね。続いて辻井さんにお聞きします。辻井さんは2024年のはじめに、日本財団が主宰するイギリスへのサステナビリティ視察に参加され、リヴァプールとウィンブルドンを見て来られたそうですね。
辻井「当時もJリーグの中でサステナビリティに関する動きはありましたが、正直にお話しすると『まだSPLを導入するほどの準備はできていないな』という感覚でした。まずは現状を把握して、Jリーグにとって大切な切り口を整理することに注力している時期だったかと思います。そんな折、日本財団から視察のお誘いをいただき、スポーツの領域で幅広く勉強できる機会と思い参加させてもらいました。あの視察についてはいっしょに行った大村さんの方が僕より断然詳しいですよ(笑)」
大村「信じられないような偶然が重なり参加させてもらったんです。そもそも僕が2023年に、楽天グループとともにヴィッセル神戸の環境対策面のサポートに入らせていただくことになったとき、元サッカー少年としての熱い思いもあって、『ヴィッセル神戸をいかに世界ーのサステナブルなチームにするか』とかなり大きなミッションを個人的に掲げていました。
そこから『世界一を目指すなら、世界一を知らなくては』と思い調べていく中で、SPLというランキングがすでに存在していることを発見しました。さらに資料を読み込んでいくと、プレミアリーグに所属するリヴァプールFCとトッテナム・ホットスパーFCが常に上位に君臨していることを知り、『なんとしても現地を見に行こう』と2023年の年末に決意したんです。
その直後に、たまたま前職のご縁から、一般社団法人「SDGs in Sports」の代表理事を務められている井本直歩子さんをご紹介いただきました。同法人が立ち上げられた、スポーツ界から使い捨てプラごみをなくすプロジェクト『Hero’s Pledge』のことも教えていただき、いろいろとお話を聞かせてもらっていたんです。その中で件のイギリス視察のことを教えてもらい、しかも井本さんも参加されるとのことだったので、僕も急遽同行させてもらいました」
――イギリス視察に参加されてみて、率直なご感想は?
大村「とにかく組織の運営能力といいますか、桁違いの規模感に驚かされました。リヴァプールFCを例に挙げると、クラブ収入は1000億円、従業員は1000人、さらにその中で社会環境系の事業に携わっているのが100人という…」
辻井「すごい規模でしたね。でも一概に比較できないなとも思いました。リヴァプールはもともと労働者の街で、経済的にも決して豊かではなく、サッカーが数少ない楽しみのひとつという人も多い。そうした地域では、10〜20代の若者が夢を持ちにくかったり、十分な収入が得られなかったり、サッカーをプレイすることも観戦することも厳しい人たちがいるという現実もある。そういう地域課題にしっかり向き合っていかないとクラブが存続できなかったという背景もありますよね。
リヴァプールFCが気候変動に向き合いはじめたのはおそらく2018年ころ。それ以前から地域の方々と向き合ってきた長い歴史があった上で、EU圏のサステナビリティ政策などの影響を受け、現在の取り組みやそれを運営する組織ができ上がったのだと思います。ですから、(Jリーグの各クラブの現状と)単純に数を比較してどうということではないんだろうなと理解しました」

辻井さんは、かつてアウトドアウェアブランド「パタゴニア」の日本支社長も務められていた。
――日本のスポーツチームにとっても、サポーターや地域とのつながりは大切だと思いますが、Jリーグ主導ではどのような取り組みが行われてきたのでしょうか?
辻井「Jリーグではホームタウン担当のオフィサーを置くことが規約で定められていることもあり、地域の社会課題に向き合う姿勢はしっかり根づいていると思います。全クラブで年間約3万回もの地域活動を行っていますから、それは担当者だけでこなせる数では到底ない。だからこそクラブ全体で関わる仕組みが自然とできているんです」
古賀「わたしたちヴィッセル神戸では、自分たちが担当している業務の中で常に何ができるかを考えながらサステナビリティ施策を行っています。たとえばノエビアスタジアム神戸で使用する電力を再生エネルギーに切り替えたり、現場レベルで日々できることで言うと電球をLEDにすることもそうですね。グッズ担当部署はリサイクル素材を採用した商品開発を行ったり、飲食担当部署はドリンクのコップをプラスチックから再生利用が可能な素材に変えたりもしています」
――地域ごとに特性が違いますから、サステナビリティの考え方、関わり方もクラブごとにかなり異なりますよね。辻井さんにお聞きしたいのですが、リヴァプールFCの組織的なサステナビリティ推進を視察されたことで得た気づきはありましたか?
辻井「最も印象的だったのは、ピープル、プラネット、コミュニティという3つの柱に対して、クラブとしてなぜそれらに取り組むのかという、その背景や目的が明確に言語化されていたことです。それに基づいてポリシーとコミットメントがしっかり打ち出されていました。リヴァプールFCの『The Red Way』というサスナビリティプログラムがはじまったのは2020年ですから、そこから現状にまで昇華させていることは、すごいことだと思いました」
――そうした気づきは、Jリーグのサステナビリティ施策の方向性にどのような影響を及ぼしましたか?
辻井「Jリーグの場合、CO₂に関して言えば試合日のSCOPE1と2の現状分析はすでに終えていて、取り組みは次の段階に進んでいます。また、イベントや単発の活動としてよい取り組みはあるものの、それらが点として散らばってしまっている印象でした。そこを、未来から逆算して戦略的に整理していく必要があるなと思いました。日本でもさまざまな議論を経て、ホームタウンで行う活動をピープル、プラネット、コミュニティという3つの柱として整理することになったのですが、それぞれの柱にどう戦略的にアプローチするかを、各クラブと対話しながら方向性を固めていけば、より大きなインパクトを生むことができる。それに気づけたことがイギリス視察の1番の収穫でしたね。それまで模索の連続だったものが一気に整理でき、加速しはじめたように思います」
次回はJリーグがSPLに本格的に参画することで期待される具体的アクションについて。第2回はこちら
記事内で触れた「サーキュラリティ評価」を説明している特設サイトはこちら
TEXT : Yuka Sone Sato (LITTLE LIGHTS) PHOTO : Teppei Hori EDIT : Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)
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