河村勇輝選手は、23歳にして世界最高峰の舞台に立った。中学時代に教員を目指していた彼は、どのようにしてその場所にたどり着いたのか。そのルーツを探ってみると、驚くほど冷静に自分自身と夢の距離をはかる、学生時代の河村選手に出会えた。

——河村選手は学生時代、学校の先生になりたかったとのことですが、そこからプロバスケットボールの世界を目指すようになったきっかけとは？

「意外に思われるかもしれませんが、ずっとプロのバスケットボール選手を目指していたわけではありませんでした。他のバスケ選手と比べると、僕は身体が大きくないですし、現実的な目標を立てて一つひとつ達成していくタイプなので、中学生くらいまでは本気で学校の先生になりたかったんです。ですが高校1年生のときに、アンダー世代の日本代表に選ばれて、Bリーガーや日本代表として戦いたいという思いが芽生えてきました。そこからBリーガーになり、日本代表で国際大会を経験したことで、より高いレベルの選手たちと戦いたいと思うようになって、NBAを意識するようになりました。少しずつ階段を上がっていったような感じです」

——徐々に世界との距離が縮まる中で、自身の強みはどのような部分だと感じるようになりましたか？

「試合の流れを予測する力と、それに通ずるノールックパスですね。自分が活躍するためには、これらが他選手より秀でていなければいけないと思っていました。いまでは少し強みにできているのかなと思います」

——もし学校の先生になっていたら、どんな先生だったと思いますか？

「そもそも僕が先生を目指したのは、両親とも教員だったからです。家でも常に生徒のことを考えている姿を見ていたので、僕もそんな先生になりたいと思っていました。『河村先生と出会えてよかった』と思ってもらえるような、先生になってみたかったですね。体育と数学が好きだったので、どちらかの教科を教えていたかもしれません」

——お父さんが英語の先生とのことですが、英語を教わる機会はありますか？

「いまも毎日のように教えてもらっています。日常会話やバスケの専門用語をベースとしたコミュニケーションは、アメリカで生活する中でたくさん学べるのですが、文法や正しい言葉の使い方を学ぶ機会は多くありません。たとえばインタビューなどでは正しい表現で英語を話したいと思っているので、正確な表現を父から日々教えてもらっています」

——チームメイトとのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。

「自分から積極的に話しかけるようにしていました。すべての言葉が通じていなくても、こちらが心を開いていることを理解してもらえれば、相手も一生懸命に僕と向き合ってくれます。また会話している中で聞き取れなかった言葉を、そのままにせず「どういう意味なの？」と聞き返して、その場でインプットし、アウトプットできるよう心がけています」

——学生時代に、バスケ以外で意識的に行っていたことはありますか？

「勉強には力を入れていました。どんな仕事でも知識は必要ですし、本当に教員になりたいと思っていたので、人に教える立場であれば勉強は欠かすことができません。先生になるという夢に向かって勉強第一で過ごしていました」

——以前、他のメディアで「自分の夢の延長線上に、子どもたちの夢がある」とおっしゃっていましたが、いまの河村選手の夢とは？

「NBA選手になることは確かに夢ではありましたが、コートに立って満足したわけではありません。ひとつの目標を達成したことで、また次の目標が見えてきました。もっと試合に出たいですし、勝利に貢献できる選手になりたいという気持ちが強いです。日本で応援してくれるみなさんやバスケを愛してくれている子どもたちにも希望を持ってもらえるような選手になることがいまの夢です」

——河村選手に憧れる子どもたちに向けて、アドバイスをお願いできますか？

「まずは自分のやりたいことを見つけることが大切だと思います。好きなことでもいいですし、得意なことでもいい。目標を定めることができれば、いま自分が何をすべきかが分かります。夢や目標が大きいものである必要はないと思うので、何かしら目指す姿があるといいんじゃないかと思います」

——syncSPORTS by Rakutenでは「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」というテーマの下で記事をつくっています。河村選手はいま、どんな“もっといい未来”を思い描いていますか？

「バスケットボールは日本でも確実に盛り上がってきていますが、ここで満足せず、さらに多くの子どもたちがバスケに触れ、夢中になってくれる未来をつくっていきたいと思っています。

いま、NBAの舞台に立てていることは、自分にとっても特別な経験です。これまで田臥勇太選手や渡邊雄太選手が切り拓いてきた道があり、八村塁選手の活躍があり、ようやく少しずつ、日本の力を世界に示せるようになってきているのかなと思います。

その姿を、次の世代が目にし、自分もNBAを目指したいと思ってくれること。それこそが、僕たちがこの舞台で挑戦や成長を続ける意味だと感じています。バスケットボールが日本のスポーツ文化の中心になるように、そして、僕を含めた選手一人ひとりの挑戦が、未来のバスケットボール全体のレベルアップに繋がると信じて、これからも全力でがんばりたいと思います」

鋭い観察眼で試合の流れを読み、常に次のプレーを瞬時に判断する。ボールを受けたかと思えば一瞬にして視界から消え、チャンスを作り出す。屈強なフィジカルモンスターが揃う世界の舞台でも、河村選手は強い存在感を放っている。それは、自分の現在地と夢との距離を冷静に分析する中で培われていった努力の賜物。きっと次なる夢も、その手で掴んでくれるに違いない。

TEXT：Kodai Wada
HAIR&MAKE-UP：Eita
PHOTO：Teppei Hori
EDIT：Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)