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競うことも、支え合うことも力になる。やり投・武本紗栄を支える二つの存在

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競技力を高めるのは、トレーニングや才能だけではない。今シーズン好調を維持するやり投の武本紗栄選手に話を聞くと、その原動力は人とのつながりのなかにあるという。新たに指導を仰ぐコーチとの関係性と、ワールドチャンピオンであるライバル・北口選手への向き合い方の変化。彼女を支える二つの存在から、挑戦を続けるアスリートにとっての大切なヒントが見えてきた。

ともに目標へ歩んでくれる人がいる心強さ

今年4月、武本選手の地元・神戸で行われた「第74回兵庫リレーカーニバル」では59m68を投げ、24年ぶりとなる大会記録更新で見事優勝。続けて同月の「第60回織田記念国際陸上競技大会」は59m14で2位。そして6月の「第110回日本陸上競技選手権大会」では、自己ベスト62m39に次ぐレコード61m74を投げ、2位を記録した。

これまでの成績から、武本選手が安定したパフォーマンスを維持していることがわかるはず。そして彼女自身も調子のよさを自負していた。

「好成績が残せている要因について思い当たることは?」

この問いに対して、彼女はすぐさま新コーチのマイク・バーバーの名前を挙げた。彼はオーストラリア出身のやり投指導者で、バイオメカニクス(生体力学)の専門家としても広く知られている。

「マイク・バーバーさんは、2019年と2022年に世界陸上2連覇を達成した女子やり投のケルシー=リー・バーバー選手のコーチであり、パートナーでもある人。ケルシー選手の投てきをずっと見てきたんですが、彼女は力の伝え方がとてもスムーズなんですよね。体格の違いはありますが、わたしが目指すかたちに近いと思っていたので、彼にコーチングをお願いしました。昨年の東京世界陸上後から正式に指導してもらっています」

とはいえ、新コーチ体制になって実質半年ほど。何年もやり投に身を置いているトップアスリートの技術が、短期間で劇的に向上するとは考えにくい。そんな疑問に武本選手はこう答える。

「トレーニングを通じて技術面も徐々に強化できていますが、なによりも彼が本気で向き合ってくれていることがうれしい。『信頼できる人が大丈夫だと言うのだからきっと大丈夫』と自信が持てているんです。それがメンタルの安定につながり、いいパフォーマンスを生んでいる気がします。いままでもたくさんの人に支えられてきましたが、目標に向かっていっしょに歩んでくれる人がどれほど心強い存在かを改めて実感しました」

指導者とライバル。好成績の裏にはこの二つの支えがある。

ライバルとして、仲間として、互いに高め合う存在でありたい

武本選手の好調なパフォーマンスを支えている存在は、信頼を置くコーチだけではない。

いま日本の女子やり投界には、ワールドチャンピオンにもなった北口選手を筆頭に、60m以上のロングスローを突破する選手が何人もいる。そんなライバルが増えることについて、武本選手は焦りではなく、うれしさや誇らしさを感じるという。なぜなら、日本人の競技レベルが高くなることは、自らを奮い立たせる原動力になり、海外勢と対等に渡り合う自信につながっていくから。

「昨年の世界陸上前までは、相手がだれであろうと絶対に負けたくないという想いが強くありました。その想いはアスリートにとって重要だと思うし、もちろんいまも持ち続けています。ただ、以前と少し変わったと思うのは、負けたくない相手であると同時に、やり投でいっしょに上を目指している仲間だという意識が強まってきたことです」

女子やり投で60mは大台のひとつ。越えられそうで越えられない壁に苦悩する時期があることを、選手たちは身にしみて理解している。だからこそ、結果が出せた選手には笑顔で「おめでとう」と心から伝えたい。そう話す武本選手は、今年6月の日本選手権で北口選手が自身の記録を上回って優勝を決めたとき、たしかに笑っていた。

「抜かれた瞬間は『なんやと!?』ってなりましたけど(笑)。ケガもあって万全なコンディションではないなかで、ちゃんと結果を出すあたり、やっぱりすごい選手やなと感じたんです。日本のやり投が現在の立ち位置を築けているのは、北口さんの活躍があってこそ。そんな彼女と競える機会をもっと増やせるように、まずはその背中をしっかりと追っていける自分でありたいです」

彼女が北口選手を追うように、武本選手を追いかけたい選手も多くいる。競い合い、認め合い、高め合うなかで生まれるパワーが、日本のやり投の未来を変えていく。その進化の過程をいまはじっくりと楽しみたい。

TEXT:Keisuke Honda
PHOTO:Yoko Tagawa
EDIT:Yohsuke Watanabe, Satoru Komura, Shiori Saeki (IN FOCUS)

  • やり投
    武本紗栄

    1999年生まれ。兵庫県神戸市出身。Rakuten Sportsとマネジメント契約を結ぶやり投選手。高校入学を機に小学生から続けてきた野球からやり投に転向。大学へ進学後、「2021日本学生陸上競技個人選手権」で62m39(日本歴代4位)を記録し、自己ベストとともに優勝を果たす。2022年に「第18回世界陸上競技選手権大会」に日本代表として出場し、11位入賞。2026年6月には「日本陸上競技選手権大会」2位の成績をマークした。

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