「まずはラ・リーガの1部でプレーしたいです」。サッカーの本場スペインで中井卓大は誰よりも大きな夢を見る
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10歳でスペインの名門サッカーチーム、レアル・マドリードの下部組織に入団した中井卓大選手。世代別の日本代表にも選出されるなど逸材として注目される一方で、近年は出場機会に恵まれず、今季は他チームへのレンタル移籍も経験した。日々奮闘。激しい競争を勝ち抜くために。2023年に20歳を迎えた彼がいま見据えているのは、一体どんな未来なのだろうか?
インサイドハーフと呼ばれる攻撃的ミッドフィルダーの選手として、チャンスをつくり、ゴール前では決定的な仕事をする。守備の際には味方との距離感を意識しながら、ボール奪取の機会を伺う。中井選手がプレーするポジションは、華やかで、しかし攻守にわたって貢献することが求められる難しさが特徴。本人は「魅せる選手になりたい」と話すものの、それだけでは足りないことも理解している。高すぎる壁に跳ね返されながらも、目線は世界の頂点に向いていた。
――2023-24シーズンも折り返しにきていますが、ここまでを振り返って、成長できたこと、課題に感じていることを教えてください。
まず成長を感じているのは、プレーをするときの身体の姿勢です。元Jリーガーで、現在は解説も務められている中西哲生さんとトレーニングをしていますが、重点的に指導してもらったのがプレー中の姿勢でした。首の位置が悪いと、疲れやすくなりパフォーマンスが落ちてしまう。そこを矯正できてからはプレーの質が上がり、怪我も減りました。動き出しが素早くなったり、呼吸しやすくなったんです。一方で課題は決定力ですね。力まずにいいシュートを打ちたいと思っていますが、ゴール前で力んでしまいます。この課題を克服できないと、ラ・リーガ(スペインリーグ)のトップで活躍するのは難しいです。初心に戻って、ゴール前でのシュート練習を重ねていきます。
――中井選手は長くスペインでプレーされていますが、特に感銘を受けた選手はいますか?
レアル・マドリード所属のルカ・モドリッチ選手とトニ・クロース選手です。誰もが知る世界的なプレーヤーですが、いまは僕とポジションが同じ。お手本とすべき理想の選手ですね。パスの正確さ、トラップの柔軟さ、シュート精度の高さ、オフ・ザ・ボールの動き、豊富な運動量。すべてにおいてワールドクラスです。それから、今年加入したイングランド代表のジュード・ベリンガム選手もすごい。毎試合のように得点していますし、すでにチームの中心です。僕と同い年なので非常に刺激を受けています。僕もそんな“魅せる選手”になりたいですね。
――日本人選手で注目している人はいますか?
やはり久保選手(久保建英選手)です。先にスペインへ渡った先輩ですし、しっかり結果を出している一流プレーヤー。たまに連絡も取ったり、(久保選手が)出ている試合はいつも観ています。ポジションは違いますが、決定力やシュート精度は見習いたいです。
――日本とスペインのサッカー文化の違いを感じることはありますか?
僕は10歳のときにスペインに来たので、実は日本のサッカーをあまり知らないんです。ただ、サッカーをする環境はスペインの方が充実していると思います。天然芝の練習場やトレーニング器具がしっかり整っていて、幼少期からそうした環境でサッカーができます。また10歳くらいの子どもだと、日本は8人制サッカーですが、スペインは11人制で行います。身体の成長具合もあるので、どちらもメリット・デメリットがありますが、戦術面での理解度を幼少期から高めることができる環境だと感じます。
――スペインでの生活には、サッカー以外にも学びがありますか?
一番は言語ですね。はじめは苦労しましたが、スペインの人はすごく優しくて、みんなが助けてくれました。まわりに恵まれたなと感じます。それからシエスタ(昼休憩や昼寝)の重要性です。しっかりと休憩を取ることは身体の成長や疲労の回復に欠かせませんし、体調を整えることができます。午後に試合や練習があるときは、シエスタをすることでパフォーマンスを高められる。それくらい僕の生活リズムに溶け込んでいますね。
――中井選手にとって、サッカーとはどんな存在ですか?
単純に好きなスポーツなんです。好きな食べ物って毎日食べたいですよね。それと同じで、好きなスポーツだから毎日やりたいし、飽きない。好きだからプレーし続けられる。シンプルにそれだけです。ほかのスポーツはあまり見ていないので分かりませんが、サッカーにはいろいろなタイプの選手がいます。足が速い選手、テクニックがある選手、パスが上手い選手、身体が大きな選手……。そうした選手が集まることで、ほんの数分でゲームがガラリと変わり、試合が面白くなる。そこがサッカーの魅力だと思います。
――今後の目標を教えてください。
まずはラ・リーガの1部でプレーしたいです。ここまでの自分のパフォーマンスには納得していないですし、いますぐ活躍することは難しいのですが、それでも成長は実感できています。チャンスが来たときには、逃がさないようにしないといけないですね。そしてゆくゆくは、UCL(UEFAチャンピオンズリーグ)で活躍したい。もちろんワールドカップにも出たいのですが、レアル・マドリードという素晴らしいクラブにいる以上、世界最高峰の大会であるUCLで活躍したいという想いが強いです。
――そんなレアル・マドリードでレギュラーを掴むために、どんな取り組みが必要だと思いますか?
毎日の練習を継続することです。やるべきトレーニングや練習、ケアなど、毎日同じに見えることも継続して積み重ねることが大切だと思います。自分の強みはトラップ(ファーストコントロール)だと思っていて、トップチームの中でも通用すると、自信を持っています。そうした強みを活かしながら、弱点を克服していきたいですね。
サッカーが好き、だから続けている――。彼の言葉からは、そんな偽らざる想いが伝わってきた。今季のパフォーマンスも、まだまだ満足のいくものではない。それでも成長できている実感がある。あとはチャンスを掴めるかどうか。世界最高峰の舞台で、スター選手たちと肩を並べる準備はできている。
INTERVIEW&TEXT:Kodai Wada EDIT:Yohsuke Watanabe (IN FOCUS) PHOTO:Taijun Hiramoto
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- 中井卓大
2003年生まれ、滋賀県大津市出身。10歳の時にスペインへと渡り、レアル・マドリードの下部組織に加入。その後ステップアップを重ね、2023年はBチームにあたるレアル・マドリード・カスティージャに所属。現在はレアル・マドリードからレンタル移籍でCFラージョ・マハダオンダに所属している。抜群のボールコントロールが持ち味で、相手ディフェンダーを華麗にいなす。幼少期に泣き虫だったことから「ピピ(ピーピー泣くの意)」の愛称で親しまれている。