悔しさをバネに、2025年の世界陸上へ。女子やり投の武本紗栄が“64m”にこだわる理由
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重さ600g長さ2mを超える“やり”を投げる、陸上の投てき競技「やり投」。武本紗栄選手は、女子やり投で世界レベルの実力を持つトップアスリート。そんな彼女はいま、2025年に行われる世界陸上競技選手権大会への出場を目標に掲げている。悔しさも味わって2024年を経て見据える、世界に向けた思いを聞いた。
世界大会への出場も記録も 有言実行の年にしてみせる
2024年6月に行われた日本陸上競技選手権大会で2位となった武本紗栄選手の記録は61.41m。同大会で優勝を決めた北口榛花選手との差は1.46m、3位の上田百寧選手との差は0.49mと、国内女子やり投のトップを担う、世代の近い彼女たちの実力は拮抗している。あと数メートル、あと数センチ──。
切磋琢磨の結果、日本代表として今年パリの地へ飛び立った北口・上田両選手は大きく躍進。武本選手も国内大会で2度の優勝を含めてたびたび上位をマークするなど上々の成績を残したが、一歩及ばずだった彼女にとってこの1年間は「悔しい」以外のなにものでもなかった。「がんばりが足りなかったんかな」とつぶやく一方、それだけのことをやってきた自負もある。自身初となるヨーロッパ遠征を実施し、国外大会にも積極的に出場。トレーニングでは、とにかく筋力をアップするためにこれまで以上にワークアウトを行うことでパワーを得た。
「パワーと技術がうまく噛み合うようになったのは、今年の後半にかけてからでした。パリへ行くという目標は叶いませんでしたが、基礎的な面を見直すことができた実りある年だったと前向きに捉えながら、気持ちを新たに、来年に向けて動きたいと思います」
続けて彼女は、海外遠征を幾度もこなすことで収穫を得たという。
「大事な試合だからと変に緊張しなくていい。多くの海外選手を見て、緊張と集中は別ものだと改めて学べた気がします。試合中でも笑顔を見せたり、なかには試合前に観光していた選手もいたので驚きました(笑)。緊張は悪いものではないけど、そのせいで体が縮こまってしまうのは違う。やるべきことはやってきたわけだし、楽しみながらパフォーマンスに集中するのがやっぱり一番なんだなと思いました」
フィジカル・メンタルともにさらなるタフネスを手に入れた武本選手が見据えているのは、次なる世界の大舞台。2025年9月に行われる世界陸上競技選手権大会だ。しかもその会場は“東京”と、否が応にも日本人選手の活躍に期待が集まる場でもある。2022年、アメリカ・オレゴン州で開催された世界陸上競技選手権大会では、代表入りを果たして決勝へと進み、11位に入賞した。彼女はそのときのことをこう振り返る。
「いつの間にか代表に決まり、決勝まで進んでしまったような感覚。たぶんあまり深く考えず、あの場に立っていたんだと思います。だから今回は絶対に出ると口にしたうえで出場したいんです」
武本選手にとって2025年は、過去の自分を追い抜き、大舞台で結果を狙えるまたとないタイミング。体制を整えるため、コンディションを入念に確認しつつ、例年より早い時期から投げ込み練習に着手しはじめたのだそう。ところで、同大会には参加標準記録という数字があり、パリ同様「64m」が女子やり投の標準とされている。この参加標準記録に届かなかったとしても、成績次第で出場することはできるが、武本選手は「64m」に強くこだわっている。
「以前は女子でも優勝記録が70mを超えていましたが、最近は60m台で上位を競い合う傾向にあります。これは一時的なもので、きっとまたすぐに70m台を出す選手が現れるはず。自己ベスト以上となる64mを口にするのはおこがましいんですけど、64mに近づけば近づくほどチャンスがあると思っています」
やり投選手の記録は、その日のコンディションなどによって波がある。ここ最近でのアベレージが60m以上と安定している武本選手が、もし64mに到達することができたら──。勝利の追い風が彼女に吹く可能性は大いにあり得る。女子やり投の中で小柄と言える武本選手の放つやりが、だれよりも遠く、そして世界に届く瞬間を楽しみにしてほしい。
TEXT : Keisuke Honda PHOTO : Teppei Hori EDIT : Yohsuke Watanabe, Shiori Saeki (IN FOCUS)
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1999年生まれ。兵庫県神戸市出身。Rakuten Sportsとマネジメント契約を結ぶやり投選手で、公益財団法人佐賀県スポーツ協会(Team SSP)に所属。高校入学を機に小学生から続けてきた野球からやり投に転向。大学へ進学後、「2021日本学生陸上競技個人選手権」で62m39(日本歴代4位)を記録し、自己ベストとともに優勝を果たす。2022年、「第18回世界陸上競技選手権大会」に日本代表として出場し、11位入賞。2024年6月、「日本陸上競技選手権大会」2位。
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