自らの力がどこまで通用するのか試したい。憧れの選手のように、いつの日か自分も世界へ──。日本と遠く離れた海外の地で、挑むと決意したプレーヤーたち。そこに至るまでの思いはさまざまで、不安も期待もあったはず。その貴重な体験談を多くの人に届けよう。第一回目は、ASモナコ U21チームに所属するプロバスケットボールプレーヤー岡田大河選手。

中学時代の岡田選手。

1.きっかけ

——海外留学を開始したのはいつですか？

「中学3年生の夏休みが終わったタイミングからスペインに留学したので、15歳のときです」

——海外留学を意識したきっかけは？

「スペインへの留学以前から短期でヨーロッパに行かせてもらう機会があって。海外のチームに参加して大会に出場したことをきっかけに、海外でバスケを学びたい気持ちが強くなりました」

——プロのバスケットボールプレーヤーになる夢は幼い頃からありましたか？

「小学生ぐらいからありました。きつい練習にも耐えられたのは、絶対にプロになるという明確な目標があったからだと思います」

——ホームシックを経験したことは？

「ないですね。それは多分、最初に行ったスペインの環境が恵まれていたからだと思います。ともに寮生活を送るチームメイトが本当によくしてくれて、友だちというより兄弟がたくさんいるみたいな感覚で毎日楽しく過ごせました」

2.言語

——はじめての留学先はスペイン。どのような学習を行いましたか？

「言葉が通じないと、試合に出ることも試合に出てからも苦労するだろうと感じていたので、留学前からスペイン語の本を買って自分なりに勉強しました。でも、いざ現地に行くと勉強だけでは学びきれていない部分が多くて苦労しました。スペインでは学校に通っていて、スペイン語の授業もあったんですけど、バスケでよく使うフレーズや日常会話は当時住んでいた寮の同部屋だった選手に毎日少しずつ教えてもらいました。ただ、相手にするのがしんどいんじゃないかってくらいしつこく質問していたので、今思うと嫌な気持ちをさせていたかもしれません（笑）。でもそのおかげで早く言葉を覚えることができたので、うまく話せなくても積極的にコミュニケーションを取ることが大事なんじゃないかなと思います」

留学先のスペインでチームメイトと。

——現在はモナコ在住で母国語はフランス語。フランス語の勉強も同様ですか？

「フランス語はスペイン語と少し似ているのでリスニングは大丈夫なんですけど、話すのは難しくて。なので必要な単語は覚えつつ、いまは英語を練習しています。というのはモナコの場合、トップチームの選手を含めて英語でコミュニケーションが取れる人が多いんです」

3.食生活

——食事に対して、どんな点に気を配っていますか？

「スペインは寮生活だったので寮母さんが食事管理をしてくれました。モナコに来てからは一人暮らしで、お昼はチームが用意してくれますがそれ以外は基本自炊です。1日に必要な栄養を把握しているので、自分である程度計算しながら食事を摂るようにしています。一番意識しているのは、食べるタイミングとバランスです。練習量がとにかく多く、朝早くから練習を行う日もあります。そうすると体を維持するために補食が多くなるので、そういった日は夕食を食べすぎないように調整する、みたいな感じです」

——頻繁に食べるメニューや、チームメイトと外食する機会はありますか？

「お米か麺なら麺が多く、特にパスタをよく食べます。外食はほとんどしなくて、シーズン中にチームメイトと呑みに行ったりすることもあまりないですね」

4.フィジカル

——屈強な外国人選手たちと互角に戦い抜くために工夫している点は？

「日本にいるときから小柄な方だったのでそこまで大きく変わらないんですが、自分から積極的に体を当てにいってアドバンテージをつくることです。相手が大きいからとマッチアップを嫌ったり、受け身になってしまうと簡単に点を奪われてしまうので。自分の体が小さいことは、コートに入れば言い訳にしかなりません。誰よりもタフに戦わなきゃいけないということを意識しています」

——最近、特に注力している練習は？

「決定力を安定させるために、ゴール下や外からのシュートなどさまざまなフィニッシュパターンを想定した練習をしています。チームが苦しいとき、自ら点を取りにいけるのが優れたガードとして重要な能力だと思っているので、点も取れてアシストもできるプレーヤーを目指したいです」

5.モチベーション

——バスケにストイックな生活を送っている印象ですが、オフ日の過ごし方は？

「オフ日と移動日が重なってしまうこともあるので日によって過ごし方は違うんですが、オフ日はしっかりと体を休めることを一番に考えています。まずはよく寝ること。寝れば大体のことはリフレッシュできる性格なので（笑）。あとモナコは街並みがすごい綺麗なので、チームメイトといっしょに散歩したりもします。やっぱり常に張り詰めた状態だと、バスケが楽しめなくなってしまいます。オフはしっかりと休んで、バスケをするときは毎回100パーセントの力を出す。そして練習後は入念にケアをする、というのがモチベーションを保つための自分なりのルーティーンです」

——プレーでなにかミスをしてしまった場合、どのように消化していますか？

「ミスを相手にせいにするのは簡単ですが、原因は自分にあると考えるようにしています。その上で、同じミスをしないようにどう修正するかが大切です。ミスしたときと同じシチュエーションを作って練習することもありますし、改善のためにチームメイトとコミュニケーションを取ることもあります」

——これまでバスケをしてきて、挫折を覚えた瞬間や忘れられないエピソードはありますか？

「中学2年時に出場した全国大会は未だに忘れられません。当時の僕は中学校の部活動ではなく、父のクラブチームをメインにしていたんですけど、幸運なことに都道府県対抗戦の選抜メンバーに呼んでもらえました。さっき、中3の夏に留学したと言いましたが、実は元々、中2の9月に留学する予定でした。でも、この大会に出場したいから留学時期を伸ばしたんです。同じチームに選ばれたメンバーもすごくいいし、自分にとって日本で最後の全国大会になるという覚悟を持って優勝を目指しましたが、ベスト8止まりで終わってしまって……。いろんな気持ちが混ざっていたことも関係していると思いますが、あのときのような思いは二度としたくない、もう負けたくないという思いが、いまの自分を支えているような気がします」

6.日本

——海外と日本で「ここが違う」と感じた点は？

「人やチームにもよるんですけど、スペインにいた頃は時間に対する考え方が少し違うなと感じるときはありました。寮から練習場まで車で送ってくれたんですが、ドライバーさんが時間にルーズでこのままだと絶対に遅刻するってことが多かったり。なので、自分でバスに乗って練習に行く日もありました。あとバスケでいうと、日本と海外で練習の入り方が違っていて。日本の場合、長めのウォーミングアップからはじまることが多いんですが、海外の場合はいきなり対人練習からはじまることが結構あります。そうなると練習開始直後からすぐに動けないといけないので、準備を考えると僕は絶対に早く着いていたい派です。でも何人かのチームメイトは、練習開始の時間に着いてそのまま参加していたので、（怪我とか）大丈夫なのかなって思うことがありました。逆にモナコは、いまのコーチが規律を大切にする方なので、開始時間の30分前には全員が揃っているような感じです」

——海外に挑戦している憧れの先輩や、参考にした日本人アスリートはいますか？

「同じスペインということもあり、サッカーの久保建英選手の幼い頃の映像やインタビューなどはYouTubeでよく観ていました。それに、久保選手の観客を魅了するプレースタイルは自分が目指すバスケのスタイルでもあるので、いまも試合動画を観て勉強させてもらっています。サッカー好きなチームメイトといっしょに試合を観ることも多いですね」

——日本のバスケットボールシーンから感じることは？

「あまり意識し過ぎないようにしていますが、ワールドカップでは諸外国のチームとやり合えていましたし、代表選手を中心にさらに盛り上がっているだろうと思っています」

7.目標

——これからの目標は？

「いままでもまわりとは違う道を歩んできたと思っているので、このまま自分の道を信じて進んでいけたらと思っています。まずは自分がいるリーグで結果を出して、ステップアップしていきたいですね。モナコのトップチームにはNBAでのプレー経験を持つ実力のある選手も多く、今の自分が同じコートに立つことは厳しいと感じていますが、ゆくゆくは海外のトップリーグでプレーし、たくさんの方々に応援されるようなプレイヤーになりたいです」

——海外留学を経験した先輩アスリートとして、海外挑戦を夢見る子たちにメッセージをお願いします。

「家族と離れた環境で、自ら判断しなければいけないことが多いなか、“これは自分自身で決めたことだ”という強い意志が必要になります。強い意志があればどんなに苦しい状況でも乗り越えられると思うので、自分のなかにある『なぜ海外に行きたいのか』や『どんなことをして、どうなりたいのか』という目標を大切にしてほしいと思います」

TEXT：Keisuke Honda
EDIT：Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)