
指揮者 角田鋼亮さんと考える、クラシック音楽とスポーツが交差する「もっといい未来」
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毎年12月に開催される、東京フィルハーモニー交響楽団によるベートーヴェン『第九』特別演奏会 Presented by Rakuten Mobile。2025年の公演で指揮を執ることになった角田さんは、『第九』の魅力について「誕生から200年経ついまも大勢の心を動かす力に満ちた作品」と語る。その魅力を掘り下げると、クラシック音楽とスポーツの意外な共通点が見えてきた。
ベートーヴェン作曲『交響曲第9番ニ短調作品125』。通称『第九』で広く知られるこの作品は、ベートーヴェンが生み出した最高傑作のひとつと呼び声が高く、年末になると日本中のオーケストラが演奏する冬の風物詩。これまでに世界各国の交響楽団と共演を果たしてきた角田さんも、さまざまな地で『第九』を指揮してきた。そんな名曲について、角田さんは「多様性」をキーワードにしながらわかりやすく紐解いてくれた。
「『第九』の魅力のひとつに、長いクラシック音楽史のあらゆる要素を包括している点が挙げられます。この作品には、ルネサンス期と呼ばれる時代の音楽様式、ベートーヴェンが尊敬した作曲家バッハの音楽様式、ベートーヴェン自身による音楽様式、作曲から100年後の時代を予感させる先鋭的な音楽様式など、いくつもの音楽様式が取り入れられているんです。音楽の国籍の面を見ても、ベートーヴェンは母国ドイツのモティーフを有機的に発展させたり、哲学と音楽を結びつける作曲法はもちろんの事、フランスの革命歌的なもの、トルコの音楽やイタリアの(オペラ的な)要素も取り入れています。また、編成にはオーケストラのみならずソリストとコーラスを交えるなど、演奏形態からもその奥行きを読み取ることができます」

角田さんは『第九』の演奏中、大きな力に導かれて指揮という行為から解き放たれていくような感覚を覚えるのだそう。
「そんな『第九』の魅力をひと言で表すなら、多様性という言葉がふさわしいかもしれません。今回のプログラムの場合ですとオーケストラ奏者が約70名、声楽ソリストが4名、合唱が約70名で構成されています。140名以上が舞台上でひとつの楽曲を演奏するわけですから、ひとりひとりが認め合い、一丸とならなければいけない。そういった精神のあり方や尊さに『第九』ならではの魅力が込められているのではないでしょうか」
第1楽章にはじまり第4楽章で締めくくられる『第九』が描くのは、精神の葛藤や死との対峙、自由を弾圧された社会、天上の穏やかな世界。そして、これらすべてを否定した末にたどり着く歓喜の物語──。今回、日本で最も長い歴史を持つオーケストラである東京フィルハーモニー交響楽団(東京フィル)と声楽メンバーがひとつになって奏でることで、またとない没入感を生み出していく。
「わたし自身、東京フィルとの年末第九公演は2021年以来2度目。どんな演奏になるのだろうかと非常にワクワクしています。『第九』は演奏するオーケストラのメンバーや会場、指揮者によって雰囲気がガラリと変わります。さらに、場の空気にインスピレーションを得て演奏していく部分もあると思いますので、その日だけの特別な感動や新たな発見が楽しめるはずです」

角田さんが小学生の時にJリーグが発足。地元にサッカークラブが誕生し、スタジアムまで観戦に行った思い出も多くあるそう。
指揮者になることを目指し、その道のために東京芸大を経てベルリンの音楽大学への留学も叶えた角田さん。きっと幼い頃から音楽漬けの日常を過ごしたに違いない!……なんて思いきや、マエストロの趣味はサッカーと、意外にアクティブな一面が。オーケストラ部に所属していた中学・高校時代は、部活が終わったあとから仲間たちとのサッカー時間がスタート。実はその中に、同級生で東京フィルのコンサートマスターを務める近藤薫さんもいたのだとか。留学時代も、日本大使館の職員たちが組む現地のサッカーチームに参加してプレーするほど。そんな大のサッカー好きである角田さんが特に気に入っているのが、チーム戦術に注目した試合観戦だと言う。
「幼い頃から試合を観るのが好きでしたが、チームごとに戦術があると知ってからますますサッカーにのめり込んでいきました。ヴィッセル神戸が採用している、攻撃と守備で流動的に切り替わる可変システムも面白いですよね。そういった戦術を見ながら、自分ならどうするだろうと考えるのが楽しいんです」
思わぬギャップを見せてくれた角田さんは、続けて「サッカーチームとオーケストラは感覚的に近いものがあります」と口にする。その意味を訊ねると、オーケストラをサッカーのポジションに置き換えながら答えてくれた。
「主な旋律を奏でるヴァイオリンやフルート、トランペットはフォワード。中間を担うヴィオラやチェロはミッドフィルダー。低い音域で音楽全体の土台を支えるコントラバスはディフェンダー。ティンパニはゴールキーパー。オーケストラの楽器それぞれには、サッカーのポジションと同じように役割を持っています。それら全体を俯瞰しながらコントロールするのが指揮者の役目であり責任なので、わたしのポジションはチームの監督といったところですね。サッカーチームもオーケストラも、しっかりと戦術を組んで準備した上で、一瞬の活路を見出す点において通じるものがあるように感じています」

サッカー以外の趣味を尋ねると将棋が好きと答える角田さん。「棋譜があって戦術を駆使する将棋のゲーム性が自分に合っているのだと思います」。
クラシック音楽の世界にも、スポーツ同様に瞬時のひらめきや調子によって練習以上のパフォーマンスを発揮する瞬間がある。もちろん、その妙技は入念な準備があってこそ。さらに角田さんは、クラシック音楽とスポーツが交差する点について次のように考える。
「楽天イーグルスなら仙台、ヴィッセル神戸なら神戸といった具合に、スポーツチームには活動拠点となるエリアがあります。オーケストラもまた同様に、地域や街に深く根差しながら活動しています。街から愛されるスポーツチームやオーケストラはひとつの文化であり、いわば象徴として大切にされてきたものです。そういった意味でも両者は非常に近い性質を持っていると言えるのかもしれません」
プロフェッショナルとして果たすべき責任。学びと余白のバランス。環境の重要性──。これまでに体感してきた物事を少しずつ振り返りながら、角田さんはいま“未来へのバトン”について考えを巡らせている。
「この年齢になって、夢を持つことは人との絆を深め、高め合える関係性の構築につながっているのだと改めて実感しています。わたしはこれまで、5年ごとのタイムフレームを設けながら夢や目標に向かって進んできました。明確なビジョンを持つことで、自分がなんのためにここにいるのか、あるいは生きているのかを確認できますし、さらに道を切り開いていくための原動力になります。これからもわたし自身の歩みは続いていきます。けれどその一方で、次の世代に対する教育、文化を継承することへの関心が年々強まっているのもたしかです。最近では音楽大学で教鞭をとるようになり、演奏会に学生を招待するなど、交流を深める機会が増えてきました。いまの自分は、若い頃から受けてきた先達からの温情を次の世代に少しずつ返していく立場。人から人へと思いをつないでいく、その先によりよい未来が待っていると信じています」
TEXT : Keisuke Honda
PHOTO : Yoko Tagawa
EDIT:Shiori Saeki, Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)
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- 指揮者
- 角田 鋼亮
セントラル愛知交響楽団音楽監督。東京芸術大学大学院指揮科修士課程ならびにベルリン音楽大学国家演奏家資格課程修了。これまでに国内外の主要交響楽団と共演。数々の名誉ある賞を受賞。日本で最も期待される指揮者のひとりとして世界中に活躍の場を広げている。
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