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【前編】「ヴィッセル?すぐ潰れるんやろ?」。震災、経営危機、降格。苦境から這い上がり、リーグの頂にたどり着いたクラブ30年史

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2025年でクラブ創設30周年を迎えたヴィッセル神戸。J1リーグ連覇という偉業を達成したいま、しかし振り返るとその歴史は決して穏やかなものではなかった。幾度かの苦境、その中で彼らはいかにして未来を描き、夢を掴み取ってきたのか。番記者として長年見守り続ける日刊スポーツの永田淳さんが、そうした強さの本質に迫るエッセイを書いてくれた。

2023年にJ1リーグを初制覇し、翌2024年にはリーグ連覇と天皇杯優勝で2冠を達成。ヴィッセル神戸は現在Jリーグ屈指の強豪クラブとして名を轟かせている。

今季は負傷離脱者が多い中で2月からAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ALCE)や富士フイルムスーパーカップ、J1リーグといきなり8連戦を強いられたこともあり、序盤は思うように結果が出せなかった。リーグでは開幕4試合勝利がなく、3月にはACLEのラウンド16で光州FC(韓国)に敗れて敗退。苦しい戦いが続いた。それでも戦力の復帰とともに力強さを取り戻して徐々に順位を上げ、8月23日の第27節セレッソ大阪戦で、首位と勝ち点1差の5位に。リーグ3連覇という偉業が視野に入る位置に入ってきている。

このように、いまでは確かな強さを誇るヴィッセル神戸だが、ここまでたどり着くには長い時間が必要だった。

1995年、発足当時のヴィッセル神戸。

クラブのはじまりは、1995年1月17日。初練習の日に、阪神・淡路大震災が発生した。以降は母体となった川崎製鉄水島サッカー部の助けを借りて、倉敷で活動をスタート。その後神戸に戻り、1996年のJFLで2位となってJリーグ昇格を果たした。

2003年末には、経営危機により民事再生法の適用を受けてクリムゾンフットボールクラブ(現・楽天ヴィッセル神戸)へ譲渡。当時は備品をリースしようとしても「ヴィッセル?すぐ潰れるんやろ?」と断られることもあった。2005年と2012年にはJ2降格も経験。そこから這い上がって、ようやく現在の地位を築き上げた。元々は決して強いチームではなかったが、紆余曲折ありながらも浮上していく姿は、震災で甚大なダメージを受けながらも復興を遂げた神戸の街とも重なり、神戸を象徴するクラブとして歩み続けている。

サポーターが歌う『神戸讃歌』は、まさにクラブと街のつながりを示すものと言えるだろう。

俺たちのこの街に お前が生まれたあの日
どんなことがあっても 忘れはしない
ともに傷つき ともに立ち上がり、
これからもずっと 歩んでいこう
美しき港町 俺たちは守りたい
命ある限り 神戸を愛したい

1997年当時のヴィッセル神戸。

2025年は、クラブ創設から30周年の節目の年を迎えている。
30年の間に培ってきたものを、今後どう未来へつないでいくのか。それは神戸の街で活動するクラブにとって、常に考えていかなければいけない課題となる。

震災発生の1995年生まれの世代が今年で30歳を迎える。幼い頃の記憶を持つ選手がいたとしても、サッカー選手が現役でプレーする年齢を考えれば、すでに「震災を知らない世代」がほとんどとなっているのが現状だ。

そういった中で、歴史をつないでいくために重要な役割を担うのが、ヴィッセル神戸アカデミーとその選手たちだ。

同アカデミーでは、毎年1月17日に神戸市中央区の東遊園地で行われる「阪神・淡路大震災1・17のつどい」に足を運び、震災を深く知ること、神戸でプレーすることの意味を伝えてきた。

現在トップチームに所属するアカデミー出身選手たちも、その教育を受けて育ってきた。

今季から主将を務めるDF山川哲史は、震災2年後の1997年生まれだが、神戸のクラブでプレーすることに、特別な思いを抱いている。

「ヴィッセル神戸は復興とともに歩んできたクラブ。自分たちがたくさんの方々に感動と勇気を与えて、少しでも前を向いて生きていく力になれるように、そういった選手、クラブになれるようがんばっていきたい」

山川哲史選手。

今年1月17日には、トップチームの全選手とスタッフの約60人が参加し、震災が発生した5時46分に黙とう。より責任ある立場になった山川は、あらためて思いを強くした。街とともに成長し、J1リーグの頂点にも到達したクラブは、これからもこの街で戦うことがどういうことかを、大切にしていく。

震災に関わること以外にも、アカデミーで育ちトップチームで活躍する選手の存在感が増していることは、クラブの未来につながるものになっている。

世界的スター選手が所属するなど年々選手層が厚くなっているヴィッセル神戸において、山川が主将を務め、MF佐々木大樹が主力のひとりとして活躍していることは、アカデミーの後輩やプロを目指すサッカー少年たちの励みとなり、手本となっている。

山川はそのことを常に意識して、ピッチに立っている。

「海外の選手が多く来たり、元日本代表の選手が多く来たりするチームの中でも『アカデミー出身選手でも戦える』っていうところを示していく必要があると思っています。自分自身はそれがこのクラブでのアイデンティティだと思うし、自分が活躍することで多くのアカデミーの選手たちの希望になりたいと思ってやっています」

山川は神戸U-18から直接昇格したわけではなく、筑波大を経由して〝復帰〟する形でのトップチーム加入だった。大学に行けば、他クラブでプロになる道も広がるわけだが、神戸愛の強い山川は他に見向きもしなかったという。

「大学に行った瞬間から、ヴィッセル神戸に戻ることしか考えてなかったです。中高のときからプレーさせてもらって、やっぱりクラブへの愛着がすごかったし、他でプロになるっていうことは考えたことがありませんでした」

ユースからトップチームへの昇格オファーもあったというが、自身の実力不足を理由に辞退。大学での4年間で確かな成長を遂げて戻ってきた男は、その愛をプレーと振る舞いで示し、主将を任されるまでになった。

「僕がずっと思っているのは、アカデミーの選手の道しるべになるということ。『こういう選手を目指せばいいんだ』っていう象徴になること。アカデミー出身の選手としてキャプテンをやっていることは、希望になる部分もあると思っています」
自身の今後が、クラブの将来につながる。そこまでの覚悟を持ってプレーをしている。

中堅と言われる年齢に差し掛かる現在25歳のMF佐々木大樹も、チーム内での存在感を強めている1人だ。

佐々木大樹選手。

島根県出身の佐々木は、U-15からヴィッセル神戸アカデミーに所属。2018年にトップ昇格を果たし、パルメイラス(ブラジル)への武者修行を経て、復帰したヴィッセル神戸で力を付けてきた。

いまではチームの中心的な働きもこなすようになった佐々木も、山川と同様にアカデミー出身の代表として戦う意識を持ってプレーを続けている。

「クラブがよりよくなっていくためには、アカデミー出身者が活躍して、そのルートづくりをしたい。クラブは大きくなってきていて、スター選手が来るようなチームっていうイメージはみんなの中に絶対あると思う。その中で僕とか(山川)哲史くんを筆頭に、アカデミーからでも活躍できるんだっていうのを引っ張って証明していかないといけないっていうのは感じています」

他クラブからやってくる実力者たちの中で、いかに自クラブで育った自分たちが存在感を示していけるか。強いチームを目指すだけでなく、より愛されるチームになるためにも、佐々木はその部分を重視する。

「ステップアップのためだったり、注目されるクラブだから来ている選手もいると思うけど、僕自身はアカデミーから育ててもらって、クラブに愛情を持ってプレーするのが大事だと感じている。もちろんみんなにもあるとは思うけど、人より強く思っていて、そこは常に意識するようになっています。Jリーグ連覇して注目されるクラブになっている中で、よりそこの部分を大事にしていきたい。そう思ってやっています」

練習場でもスタジアムでも、あらゆる世代のサポーターから「だいじゅー!」と声援を受けるのは、佐々木自身のキャラクターはもちろん、クラブ愛を抱いてプレーしていることが伝わっているからだろう。サポーターから見ても、神戸のことが好きな選手という認識があるから、親しみを持って接することができる存在。こうした〝つなぎ役〟となる選手がいることは、クラブとサポーターの良好な関係づくりの面でも、必要不可欠なものとなっていくはずだ。

TEXT:Jun Nagata

  • 日刊スポーツ記者
    永田淳

    1980年生まれ。商社、フリーランスのサッカーライター、商社、外資系半導体メーカーでの勤務を経て、23年4月に日刊スポーツ新聞西日本に入社。ヴィッセル神戸をはじめ、関西のスポーツ取材を担当している。日本サッカー協会B級ライセンス保有。日本アンプティサッカー協会技術委員長。

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