昨シーズン（2024年）の汰木康也選手、そのスタートは華々しいものだった。Ｊ１リーグ第1節のジュビロ磐田戦、前半5分に突き刺した開幕弾となるボレーシュート。「今年の汰木はすごいかもしれない」。ファン・サポーターの誰もがそう期待した。しかし、昨シーズンの得点はこの1点のみ。第2節で肋骨を骨折し、長期離脱。そこから長いトンネルに入った。チームは2冠を達成したものの、本人は満足していない。今年こそ——。そんな想いを誰よりも強く持ち、新たなシーズンに挑もうとしている。

——昨シーズンを振り返り、自身の成績をどのように捉えていますか？

「個人的には悔しいシーズンだったなと感じています。もちろん開幕戦でゴールを決められ、活躍できた部分もあったのですが、それ以上にケガに悩まされたシーズンでした。一箇所ケガをして、そこが治ったと思ったらまた別の箇所をケガして……という繰り返し。なかなか100％のコンディションに辿りつかず、もどかしい日々でした。チームは2冠を達成しましたが自分自身には満足していません」

——ケガでプレーできない時期は、どんなことを考えていましたか？

「モチベーションを保つのが難しい時期ではあったのですが、それでも現実から目を背けることはしませんでした。たとえば大聖（宮代大聖選手）やてっし（山川哲史選手）といった年下の選手の活躍を見て、『自分も早くあの場所に戻りたい』という思いが強くなりましたし、チームに貢献できなくて悔しい反面、大きな刺激になっていたと思います」

——今年30歳を迎え、チーム内でも中堅選手としての振る舞いも求められると思いますが、コミュニケーションの取り方で工夫していることはありますか？

「もともと自分からコミュニケーションを取るのが上手ではないのですが、どんどん若い年代の選手もチームに加入している中で、ベテランと若手の間に立って連携を取れるようにしたいとは思っています。僕より上の世代は実力も実績も日本トップレベルなので、若手はきっと緊張してしまうはず。自分から話しかけて雰囲気を和ますなど、下の世代に対して僕自身も気配りをしてあげたいなと考えています」

——悔しい反面、大きな刺激になったと話された昨シーズンをバネに、自身にどのような成長を期待しますか？

「ひとつは決定力です。アシストも含め、ゴールに直結するプレーを増やしてゴール数・アシスト数を伸ばしていきたいです。昨年はケガの影響はあったものの、出場した試合でも数字を残すことができていません。チームはよい結果が出たとしても、自分が活躍できないとやはり悔しいんです。もっと数字で貢献していくためにも、まずはケガをしないことが重要だと改めて思いました。練習後のケアや食事、休養はこれまで以上に気をつけるようになっています」

——汰木選手といえば華麗なドリブルが持ち味だと思います。プロになる前から得意だったんですか？

「得意というよりは『好き』ですね。小さい頃はマーカーを縦に並べてジグザグにドリブルしたり、足裏を使ったフェイントをしたり、ドリブルが好きでそんな練習ばかりしていました。そうしたことをずっと公園でやっていたので、誰よりもボールに触れる時間が長かったという自負はあります。暇なときは常にサッカーボールを触っていたと思いますよ（笑）」

——汰木選手自身は、自分の強みをどんな部分だと感じていますか？

「ドリブルももちろんですが、そうしたプレーを通じてチャンスメイクできるところが強みだと感じています。ドリブルからのラストパスであったり、相手の注意を自分に引きつけて仲間を活かすプレーであったり。ゲームの流れを作る・変えるプレーが特徴だと思っています」

——チームメイトの中で特に活躍を期待している選手はいますか？

「仲がいいのもありますが、個人的にはクワ（鍬先祐弥選手）ですね。昨年はシーズン後半になるにつれチームにフィットしてきて、出番も増え、自分のよさをどんどん出せるようになっていった印象です。がんばってほしいです」

——自身の今シーズンの目標は？

「まずはケガをせずにしっかりと試合に出ること。その中で結果を残すこと。具体的には10ゴール・10アシストを目標にしていきたいです」

——今シーズンの勝利はもちろん、汰木選手はどこまで「未来」を見据えていますか？

「僕はAFCチャンピオンズリーグエリート（ACLE）へのこだわりがものすごく強くて、何がなんでも手に入れたいタイトルなんです。浦和レッズにいた頃から、あの舞台で活躍したいとずっと思いながらやってきました。海外の様々な地域のクラブと対戦できて、国内の試合とはまた違ったおもしろさがある。たとえば中東のクラブとアウェイで対戦するときの、相手サポーターの異様な雰囲気はなかなか味わえない。ものすごいプレッシャーなのですが、僕にとってはそれが逆にモチベーションというか、「やってやろう」という気持ちになれるんです。いつかあの大舞台で活躍してトロフィーを掲げたいですね」

ヴィッセル神戸加入後、最も出場試合数が少なかった昨シーズン。度重なるケガに悩まされ、本来の力を発揮することができなかった。ACLEのタイトルも狙える今シーズンに懸ける想いは、人一倍強い。コンディションが整えば、相手ディフェンダーを欺くドリブル、豪快なシュートでチームを勝利に導いてくれるはず。汰木選手の勝負の一年がはじまろうとしている。

PHOTO：Makoto Nakasone
TEXT：Kodai Wada
EDIT：Yohsuke Watanabe (IN FOCUS)