スマホは週に1時間だけ。競輪選手への道は予想以上に険しい……!? 未来のプロを一手に育てる「日本競輪選手養成所」に行ってきた
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静岡県伊豆市にある「日本競輪選手養成所」は日本で唯一、競輪選手を目指す候補生を育てる場所。日本の公営競技である競輪の未来を支えるホープたちは、10ヶ月間の養成所生活を乗り越え、全国43箇所ある競輪場へと巣立っていく。養成所にいる候補生はどんな生活を送っているのだろう。その一部を覗いてみることに。
競輪選手はみんな国家資格持ち。 ハードな訓練を経てやっとスタートラインへ。
緑に囲まれた起伏のある山道を抜け、季節が一望できる高い位置に、候補生たちが生活する日本競輪選手養成所がある。養成所の近くには国際大会で使用された室内自転車競技場「伊豆ベロドローム」があり、近隣に住むナショナルチームの選抜選手が早朝から山中トレーニングを行う姿も目にする。現在、プロ競輪選手の人数は2300人以上。野球やサッカーなど他競技のプロ選手が競輪に転向するケースも見られ、その人数は国内プロスポーツ最多と言われているほど。その理由のひとつに、競輪選手になるための条件の広さがある。
「満17歳以上の日本居住者(※1)であれば、性別学歴も問わずだれでも目指すことができます」。
今回案内を担当してくれたのは、本養成所を管理する経済産業省管轄の公益財団法人「JKA」職員の山川さん。年齢による上限がないから、養成所に入所する候補生の年齢もバラバラなのだそう。続けて山川さんは、競輪選手になるために必要な資格についても教えてくれた。
「養成所生活を終えた候補生は、競輪選手になるための国家試験『競輪選手資格検定』を受験します。国家資格の合格を得て、晴れてプロ入りを果たせるんですよ」
競輪は公営競技。その選手もまた、国が認めた資格を所持する公人となる。ちなみに規則上、日本競輪選手養成所に入所せず、いきなり競輪選手資格検定を受けることも可能。しかし「過去にいませんけどね」と話す山川さんの言葉から、競輪選手になるための知識や技術がいかに特殊なのか察することができる。養成所の訓練期間は5月から翌年3月までの10ヶ月(※2)。現在、127回生の男子約70名、128回生の女子20名、合わせて90名ほどが養成所内で生活を送る。受験倍率は男子が4~5倍、女子が2~3倍だそう。さっそく、候補生が日頃生活を送る養成所内を案内してもらうことに。まず最初は候補生たちの訓練場所であり、模擬レースやタイム測定会などを行うバンクへ。
「養成所には250m、333m、400m、3種類のバンクがあります。250mは競輪レース用ではなく、国際大会の自転車競技で使われているサイズですね」
この日見せてもらったのは、屋外に設置された333mと400mのバンク。競輪はレースごとに1500~3000mの走行距離が設定されていて、設定距離分を周回する間で着順を競っていく。ちなみに養成所内は広大で、2つのバンクを行き来するにも車を使って移動するほど。次は、候補生が自転車などを保管する格納庫へ。
「現在は養成所全体が改装工事中のため1箇所に保管されていますが、本来は男子と女子で別々の格納庫になります。女子の自転車フレームはカーボン製と定められていて、鉄製フレームが規定の男子に比べると割高傾向ですね。車両代がかかってしまうので、師匠にあたる人や自転車競技の先輩からレンタルしたり譲ってもらうケースもあります。候補生が被る帽子は5色(金、白、黒、赤、青)で、色によって在籍中に行われる記録会の成績(※3)がわかるようになっています。また、成績に応じた報奨金制度(※4)もあります」
報奨金制度をひとつの例に挙げながら、候補生のモチベーションを保つために養成所の規則にも時代に合わせてさまざまな変更があると山川さんは言う。
「コロナ前は男女それぞれが隔週日曜日の9時から17時まで外出できたんですが、昨年は夏のお盆期間のみ、今年は夏冬の2回しか外出することができません。社会環境への対応と個人を尊重するために、いまの養成所では日曜日の1時間だけスマートフォンの使用が許可されています。スポーツ医学や自転車理論、整備についてや競輪に関する法律などを学ぶ学科内に、SNSの扱い方に関する科目が設けられたことも現代ならではの変化ですね」
スマホ禁止なんて厳しすぎる、と感じる人もいるかもしれないがそれには理由がある。賭けの対象である競輪では、公平性や情報漏洩を防ぐ観点から競技参加中は通信機器類を持ち込むことが禁止されている。養成所もそれに則り、ルールを守る大切さやプロアスリートになる自覚を養う目的から平日のスマートフォン使用は原則禁止。10ヶ月間スマホなしの生活に自分なら耐えられるだろうか……、なんてことを頭に浮かべながら、山川さんと次に向かったのは室内体育館。
「女子はマットを使ってピラティスなどの体幹トレーニングもしていますね。あと、マットの上でハンドルを持って転び方の練習をするという競輪選手養成所特有の訓練も目にします」
候補生の訓練時間は月曜から土曜の午前中まで。しかしプロの道を目指す彼らにとって、与えられた時間は限られている。休みの日にも自主的にトレーニングを行っているのだそう。
「もちろん息抜きも必要。居室ごとに設置されたテレビを使い、各自で持参したDVDを同期仲良く鑑賞しているみたいです」
「ではそろそろ宿舎へ行って、候補生から話を聞きましょうか」
取材に答えてくれたのは、競輪選手を目指して養成所生活を送る三浦生誠候補生。2024年パリパラリンピックでは、楽天ソシオビジネス所属で視覚障がいを持つ木村和平選手のパイロット役としてタンデム競技トラック種目にも出場している。
三浦候補生のインタビューはこちらの記事から。
インタビューを終え、三浦候補生が向かう食堂にも同行した。
養成所を卒業後、候補生たちはA級3班(女子はL級1班)のカテゴリー(※5)に登録されてプロ選手になるが、その存在はあくまでフリーランス。補償される賃金はなく、生活すべてが自分の実力にかかっている。
そして強い選手ほど、北は函館、南は熊本、津々浦々で開催されるレースに出場するようになる。案外、自分が暮らす街のすぐ近くにも競輪場があったりするかも。鍛え抜かれたフィジカルと戦略を武器に展開されるアスリートのぶつかり合いは興奮必至。若手の期待株を応援してもいいし、ベテランの技巧に酔いしれてもいい。地元出身の選手やガールズケイリンで推し活、なんて楽しみ方もありだ。
競輪に賭けが伴うことは周知の通り。しかし、競輪場での収益が社会に還元されている側面も知っていてほしい。地方自治体の財政の健全化や、機械復興補助事業(環境問題や省エネルギー分野の復興や、交通対策などを対象にした補助事業)、公益事業復興補助事業(スポーツの推進や、子どもや高齢者への福祉支援、伝統文化の継承などを対象にした補助授業)に役立てられるなど、競輪全体が盛り上がることで社会環境の改善やスポーツ分野のさらなる発展につながっている。そのことを胸の片隅に置きながら、ぜひ生で競輪場のボルテージが上がる瞬間を体験してもらいたい。
PHOTO:Teppei Hori TEXT:Keisuke Honda EDIT:Shiori Saeki (IN FOCUS)
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