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パラサイクリングのタンデムパイロットとして世界大会出場も果たした三浦生誠。さらなる未来、プロの競輪選手デビューに向かって。

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楽天ソシオビジネス所属で視覚障がいを持つ木村和平選手とペアを組み、パリパラリンピックの2人乗り自転車競技「タンデム」に出場した三浦生誠。彼はいま、日本競輪選手養成所に入所する候補生のひとりとして、10ヶ月間の厳しい寮生活を送っている。プロの競輪選手を目指す候補生はどんな日々を送り、どんな未来を想像しているのだろう。

自転車競技をもっと知ってもらうために、
「人を感動させる選手」になりたい

候補生が1日の課業を終え、少しだけ空き時間ができる夕方ごろ。養成所周辺の撮影を済ませた取材チームは、競輪選手を目指して寮生活を送る三浦生誠候補生に話を聞かせてもらうことにした。三浦候補生は2024年パリパラリンピックで、視覚障がいを持つ木村和平選手のパイロット役としてタンデム競技トラック種目にも出場した。

——お疲れのところお時間をいただきありがとうございます。このあとは居室に戻るんですか?

三浦「そうですね。課業は終えたのでこのあと宿舎に戻り、ご飯を食べたりお風呂に入ります」

——1日のスケジュールってどんな感じですか?

三浦「候補生の1日は、

6時30分 起床
6時45分 点呼
6時50分 錬成*
7時10分 掃除
7時30分 朝食

*候補生全員が外に集合して体操などを行う

が課業開始までの流れです。そのあとは、

9時0分 課業整列
9時5分 第1時限
9時55分 第2時限
10時45分 第3時限
11時25分 昼食
12時5分 課業準備時間
12時50分 課業整列
12時55分 第4時限
13時45分 第5時限
14時35分 第6時限
15時25分 第7時限
16時15分 第8時限
17時0分 入浴(19時まで)
17時45分 夕食(18時45分まで)
19時45分 自由時間
21時0分 点呼
22時0分 消灯

といった過ごし方になります。午前中の課業は日によって3時限または4時限の場合があって、今日は3時限でした」

——やはり、規則正しい生活ですね。今日の課業内容は?

三浦「午前中はバンクで自転車を使った訓練です。先導するバイクの後ろに付いて走りました。空気抵抗が少ないバイクの後ろで、よりスピードを出すトレーニングです。午後は体育館でウェイトトレーニング、そのあとはローラートレーニング、最後に視聴覚室でVTR指導を行いました」

——VTR指導というのは?

三浦「競走訓練といって候補生同士でレースを行うんですが、そのときに録画した映像を見ながら『こういうときはどうするのがよかった』など、違反や反省箇所に対して指導をいただくような科目です」

——そもそも、なぜ養成所に入所したんですか?

三浦「高校生の頃から自転車競技をはじめたんですが、養成所に入る大きなきっかけは2019年のKEIRINグランプリで活躍された脇本雄太選手の走りに感動したことです。とにかくもがく(※1)距離が長くて、自分もグランプリで同じような走りをしたいと思いました。あと、僕は岩手県出身なんですが、同じ地元で自転車競技出身の藤根俊貴選手が競輪選手になって活躍されている姿に憧れを抱きました。高校3年時にはいっしょに練習させていただく機会もあり、本当にカッコよくて尊敬している選手です」

(※1)「もがく」は競輪用語で「全力疾走すること」。

——入所から半年以上経ちますが、養成所生活はどうですか?

三浦「あっという間な気がしますが、ふとしたときに長いなって感じることがあります。多分みんな早く卒業したいと思っているはずです(笑)」

——辛いではなく、“長い”なんですね(笑)

三浦「訓練メニューがキツい日や、調子が上がらないときでも向き合う必要がある点は辛さと言えるかもしれませんね」

——スマホが使用禁止なことなど、日常でのストレスは?

三浦「寮生活を送る以上、自分の好きなことが自由にできないことや、生活でスマホが使えないことに対するストレスはそれほど感じません。むしろ、候補生という競い合う相手がたくさんいる環境で、相手と比べて自分のタイムが悪かったり、勝ちに行ったレースで負けたときのほうがよっぽどストレスを感じているかもしれません」

——レースの着順は訓練生同士で意識しあうんですか?

三浦「僕の場合は着順を意識するというより、足を使った訓練がいかにうまく行えたかという感覚が強い気がします。着順にこだわる人はとことんこだわると思いますし、自分がしたいレース展開の練習と捉えている人はそれほどこだわっていないように感じるので、人それぞれで目的意識が違うんだと思います」

——候補生一人ひとりで長所も短所も違うと思います。個別トレーニングもあるんですか?

三浦「個別の指導がないわけではありませんが、養成所で教わるのはあくまでも全体的なことで、個人の課題は走りながら自分で解決しなくてはいけません。競輪選手一人ひとりの漕ぎ方はみんな違っているので正解がないんです。自分に近い選手を真似てみたり、師匠から言われたことを試してみながら自分で正解を見つけていきます」

——え? 競輪選手に師匠と弟子の関係性が!?

三浦「師匠というのは、競輪についていろいろと教わったり困ったときに相談する先輩のことです。絶対にいなきゃいけないってわけではないんですが、ほとんどの候補生には、例えば地元が同じことをきっかけに師弟関係を結んだ先輩レーサーがいたりしますね」

——苦手な訓練メニューはありますか?

三浦「国際大会基準の250mバンクです。まわりの候補生たちからは『走り慣れてるだろう』と言われるんですが、タンデム(※2)の感覚が残っているからなのか、ひとりで走るとなかなか調子が出なくて……。脳や筋肉の使い方から体のバランスもタンデムとは大きく違うのでうまく使い分けられず、タイムに伸び悩んでいるので改善したいと思っています」

(※2)三浦候補生は大学時代にタンデムスプリント(2人乗り自転車でのスプリント種目)の選手として活躍。またパラリンピックも250mバンクが規定となる。

前席に健常の選手(パイロット)、後席に視覚障がいの選手(ストーカー)がペアで乗る自転車競技「タンデム」。三浦候補生はパイロットを務めた。

——パラリンピックのタンデムでは木村和平選手の前に乗るパイロットとして出場しました。候補生生活との両立についてどのように捉えていましたか?

三浦「養成所生活をがんばることは前提ですが、世界的な大会に向けて全力を出したい気持ちがすごく大きかったので、どちらかというとタンデム寄りに考えていたと思います。今後はどうなるかわかりませんが、もし仮に4年後にまたタンデムのパイロットをやるのであれば、僕自身は養成所を卒業してプロの競輪選手になっているはずです。国際大会の出場は名誉なことだと十分理解していますが、普通のがんばりだけじゃいい成績は残せないし、本職となるレースで結果を出さなければ自分の生活に関わってくるので、時間の使い方を考えないといけないなと思っています」

——タンデムと競輪の両方を経験する三浦候補生にとって、それぞれの魅力は?

三浦「タンデムトラック種目は2人の力が合わさったときに早いタイムが出るところが魅力です。見る側にとっても、スピード感や2人の掛け合いは面白さを感じてもらえる部分だと思います。競輪は最後まで誰が勝つかわからないレース展開に魅力があります。ゴール直前のごちゃついたところに誰が来るかという結末に期待する見方が王道だと思うんですけど、個人的には先行した選手がもうここまで逃げてる!みたいな感じで見るのが好きです。残り1周ぐらいまでに先行選手がどの位置にいて、ここからゴールまで逃げられるのか、後半の残り半周でまくられる(※3)のか、ハラハラしながら見ると楽しいと思います」

(※3)「まくり」は競輪用語で「後ろから一気に抜き去ること」。

——プロの道を進んでいくために、解決しておきたい課題は?

三浦「鉄フレームに対する体の使い方です。養成所に入るまでやっていた自転車競技はカーボンフレームだったので、競輪選手が使う鉄フレームにまだ全然慣れていなくて。カーボンと鉄では体の使い方が異なる上、鉄のほうが操作が難しいように感じます。鉄フレームに乗り慣れた他の候補生より圧倒的に経験が足りていないので、この10ヶ月間は慣れるために考え続ける時間だと思って訓練に励んでいます。あとはやっぱり技術の向上ですね。自転車をより早く前に進めるための方法は、ぺダリングの仕方など細かいテクニックで大きく変わってきます。ただ“早い”選手ではなくて“強い”選手になるためにはどうしたらいいのか、常に考えながら走っています」

——卒業後はどんなことを目標にしていますか?

三浦「ヤンググランプリ(※4)に出て優勝したいです。競輪選手としての目標は、自分が競輪のレースに感動してプロを目指したのと同じように、人を感動させることができる選手になりたいと思っています。自転車に乗る人は日本国内に増えていると言われていますが、自転車競技全体はまだまだマイナーなスポーツで、自転車先進国に比べると競技人口の差も歴然です。競輪はもちろん、自転車競技がもっとメジャーなスポーツになれば、プロを目指す若い人も増えてさらに盛り上がるんだと思います」

(※4)ヤンググランプリは、開催当年から遡って2年以内にデビューした男子選手を対象にしたレース。参加できる選手数はわずか9名。基本的な出場条件はS級在籍及び最低出走回数は36回など、若手選手の中でも特に好成績を収めていることが必須となる。

——競輪や自転車競技を知らない人にも、「面白い選手がいる」と興味を持ってもらうことが大切ですよね。そうすることで競輪場に足を運ぶ人が増え、地域復興やスポーツ文化のさらなる発展にもつながります。今日はトレーニング終わりの貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。応援しています!

三浦「こちらこそありがとうございました!」


候補生が生活する「日本競輪選手養成所」についてもっと知りたい人はこちらの記事から。

PHOTO:Teppei Hori
TEXT:Keisuke Honda
EDIT:Shiori Saeki (IN FOCUS)

  • 自転車競技
    三浦生誠

    2001年生まれ。岩手県出身。日本大学文理学部卒業後、日本競輪選手養成所へ入所して127回候補生に。高校から自転車競技をはじめ、大学在学中はタンデム競技を中心に活躍。2021年から木村和平選手のパイロットとしてペアを組み、翌年に開催された全日本選手権で1kmタイムトライアル日本記録を樹立。2023年、アジア・パラサイクリング選手権ではタンデム競技3冠を達成するなど、輝かしい成績を残す。

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