準備。それは重圧をはねのける盾。前川黛也インタビュー
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守護神と呼ばれるそのポジションは最後の砦。ゴールを守るためにそこに立っているからこそ、失点した時の責任は誰よりも重い。重圧の中で戦うヴィッセル神戸の背番号1、前川黛也選手にその重圧との向き合い方を聞いた。準備、ぶれない信念、そしてチームワーク。キーパーの存在が、その努力が、チームを団結させていく。
守護神と呼ばれるそのポジションは最後の砦。ゴールを守るためにそこに立っているからこそ、失点した時の責任は誰よりも重い。重圧の中で戦うヴィッセル神戸の背番号1、前川黛也選手にその重圧との向き合い方を聞いた。準備、ぶれない信念、そしてチームワーク。キーパーの存在が、その努力が、チームを団結させていく。
ゴールキーパーは、攻撃の時にも自陣を守るためにたった一人でゴールの前にいるポジションで、孤独な存在。そんなイメージを抱いていた。
「僕は誤解だと思います」
前川黛也は真っすぐ見つめてそう話した。
「キーパーそれぞれ考え方は違うかもしれませんが、孤独に感じるかどうかは、日々の信頼関係やコミュニケーションによって変わってくると思っています。ミスや失点に対して一番に責任を負うポジションではありますが、防ぎようのなかった時にはチームメートからポジティブな言葉をかけてもらうこともある。本当に支えてもらっているなと実感しながらプレーできています」
ゴールキーパーはユニフォームの色も違い、フィールドでは唯一手を使ってもよく、練習メニューももちろん違う。まったく違う状況にいるプレーヤーが他のプレーヤーと意思疎通し、勝利という一つの目標に向かって進むためにはプレーだけ完璧にできればいいわけではない。チームが一致団結するには信頼関係を欠かすことはできないからこそ、普段の生活からコミュニケーションをとり、人間として信頼されることが大事だと強調する。
「常に見られている意識を持ち、率先して行動することを心掛けています。チームメートと話すこともそうですし、日々の取り組みや私生活での行動など、そういった小さなことから意識して過ごしています」
ミスも失点もゼロにできることが一番だが、起きてしまったとしても努力している事実と信頼関係があればチームとしてカバーしあい前に進むことができる。だから「これも試合に向けた準備のひとつですね」と語る。
前川が一番大事にしているという、準備。それは重圧をはねのける盾にもなる。かつて、重圧の大きさや批判の声に苦しんだ時期もあったという。その状況から立ち上がるには自信を持てるだけの準備が必要だった。
「誰にも負けないと思えるくらい、練習にも練習外での行動にも意識を向けている自負があります。ここまでやったならミスが起きても仕方がない、と思えるところまでやる。最大限の準備をすることによって不安要素を取り除いて試合に臨むことができますし、準備することで重圧も軽くなると信じてやっています。落ちているゴミを拾うこともそう。小さなことですが、ここまでやっているから大丈夫だと思える行動を積み上げていくことが大事になってくるのかなと」
努力して、苦しみを乗り越えて、「少しのことでは揺るがない」強さも身に着けた。それでも変わらなかったのは自分という個性。
「個人的にはもっとどしっと構えて、まさに大黒柱、みたいな感じの人がキーパーには適正なのかなとも思います。ですが気さくに話しができて、私生活も含めて信頼のおけるキーパーというのが僕のキャラクターには合っている。僕は僕なりに自分が描いたキーパー像に向かって進んでいきたい。オリジナルのキーパーになりたいなと思っています」
無邪気な笑顔と物腰の柔らかな姿勢。“自分らしさ”を伸ばして唯一無二の存在になっていこうとするその姿は、無理して背伸びをするよりずっと魅力的に映る。だからこそ、圧倒的な個性と実績を持ったメンバーが揃うヴィッセル神戸の中でも、自分をぶらすことなくその輪に溶け込んでいけるのだろう。
TEXT:Chiharu Abe