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50℃の炎天下でサッカーなんて……。Jリーグのサステナビリティ担当 辻井隆行さん、そんな未来を防ぐ方法、教えてください!

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突然の豪雨によって試合が中止となってしまう。猛暑によって選手たちの運動量が低下し、プレーのクオリティが著しく低下してしまう。近年のJリーグでは、そんなシーンが見られるようになった。地球温暖化の影響は、日常生活のみならず、Jリーグの試合にも大きく関係している。ヴィッセル神戸はそうした状況を改善するために、ホームでサーキュラリティ評価を導入したり、飲食売店で環境配慮素材を用いたカトラリーを使用するなど、積極的に環境保全に取り組んでいる。では、サッカーの未来を守るために、わたしたち一人ひとりはどのように行動すれば良いのだろうか。Jリーグ執行役員・サステナビリティ領域担当の辻井隆行さんに、日本サッカー界の現状と、目指すべき未来について聞いてみた。

——まずは気候変動や環境の悪化が、サッカー界へ与える影響について教えてください。

大きく分けると二つあります。一つは台風の激甚化や線状降水帯の頻発化です。特に日本の場合、国土が海に囲まれているので、地球温暖化によって海の表面温度が上がることで水蒸気が増え、そこに台風が来たりすると、雨の降り方が激甚化しやすくなるんです。こうした傾向が2018年頃から強まっていて、Jリーグも大雨等によって試合を中止せざるを得ないケースが約5倍※に増えました。(※2018年以降と2017年以前の平均比較)

もう一つは暑さです。これは世界中で起きていることですが、地域によっては50℃を超えるような場所もあって、スポーツどころではありません。日本も夏は40℃前後を記録することがありますが、そうしたコンディションでは通常のプレーはできませんよね。豊富な運動量と強いフィジカルは現代サッカーのベースになっていますが、酷暑の中で試合をすると運動量が著しく低下し、プレーの質も下がります。そうしたところに気候変動の影響が出てきています。

——辻井さんも社会人リーグでサッカーをご経験されていたとのことですが、当時と比べても、コンディションは厳しいのでしょうか?

わたしがプレーしていたのはいまから30年くらい前なので、思い出すのも難しいのですが(笑)、当時は真夏でも全力で走っていたと記憶しています。それがいまだと、上手くサボらないと90分プレーできないと名だたるOB選手たちも口にされています。また夏場は、特に人工芝の上では裸足ではまともに歩けないくらい熱くなります。人工芝の上でプレーする機会が多い子どもたちは、火傷してしまう危険性もあります。選手だけでなく、指導者側も相当気を遣わなければいけませんよね。

——そうした中で、Jリーグとしてはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

2023年1月にサステナビリティ部を立ち上げました。まず取り組んだのが、試合開催にあたって消費される電力を再生可能エネルギーに転換することです。1,220試合の電力全てを再生可能エネルギーに切り替えました。また2030年には、より持続可能な社会づくりに貢献することを一つの目標としており、その第一歩としてサッカーを親しむ人に「自分たちにもできることがある」というのを知ってもらえるように、サステナビリティに関する積極的な情報発信にも取り組んでいます。元日本代表で、現在Jリーグ特任理事の小野伸二さん、中村憲剛さん、内田篤人さんにご出演いただいたYouTubeの動画もあるので、ぜひご覧になってほしいです。

——ヴィッセル神戸は、ホームでのサーキュラリティ評価など、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを実施しています。

Jリーグのクラブとして先進的な取り組みを行っていて、素晴らしいと思います。未来のビジョンを示すことは重要なのですが、理想と現実のギャップを認識できていないと、理想にも近づいていけません。そうした意味でヴィッセル神戸が取り組んでいるサーキュラリティ評価は、問題がどこにあるのかを可視化しようとする施策ですので、それに基づいて良い未来を目指していくのは大切なことではないでしょうか。

——Rakuten SUPER MATCHのように、試合を楽しんでもらいながら環境問題についてもサポーターの方々に知ってもらうイベントを、どのように捉えていますか?

環境問題もサッカーも、相手(お客さま)がいるからこそアクションを起こせると考えています。サポーターなくしてJリーグの試合は成り立たないですし、環境保全もサポーターの方々に取り組んでいただくからこそ、実現できる。日頃からJリーグを応援してくれる人たちが、定期的にRakuten SUPER MATCHのような特別な機会に触れることで、環境保全を意識するきっかけになります。サッカーと環境保全のバランスが重要だと思うので、注目度が高い国立競技場でRakuten SUPER MATCHを開催することは、すごく意味があると感じています。

——その一方で、ヴィッセル神戸が取り組む環境保全に、課題や改善点は感じていますか?

ヴィッセル神戸も、本格的に取り組みはじめていますよね。試行錯誤しながらやっている段階だと思うので、その施策を大きく変えるのではなく、まずはいまやっていることを積み重ねていくことが大切だと思います。継続して取り組みながら、課題が見えてきたら少しずつ軌道修正していく。まずはいまのヴィッセル神戸にできることを継続してやっていただいて、Jリーグの他クラブをリードしていただけたらありがたいです。

——未来を良くするために、わたしたち一人ひとりは何をすれば良いのでしょうか?

“知ること”からではないでしょうか。なぜ環境保全が必要なのか、何が問題となっているのか、今後どうなってしまうのか。その背景を知らなければ、継続して環境保全に取り組むのはきっと難しい。まずは現状をきちんと知ってもらって、次のアクションを考えるのはそれからだと思います。

——辻井さんがつくっていきたい“スポーツの未来”とはどのようなものでしょうか?

わたしの役割は、クラブや選手が自由にサッカーができる環境を整えることだと考えています。先ほどの通り、気候が原因でスポーツやサッカーを楽しめない状況が増えてしまっています。そうした状況を食い止め、誰もが楽しめる環境をつくっていきたい。将来のことを予測するのは簡単ではありませんが、5年後、10年後のサッカー環境をつくるのは“いま”のわたしたちです。スポーツやサッカーに取り組む人たちが自由に未来を描ける日が来たら嬉しいですね。

持続可能な社会を実現するためには、時間も労力もかかる。それでも、立ち止まるわけにはいかない。昨年のヴィッセル神戸は、一つひとつ勝利を積み重ねることで優勝という大きな夢を掴むことができた。環境保全も同じように、わたしたちにできることを一つひとつ積み重ねていこう。その先に、スポーツの素敵な未来があると信じて。

TEXT:Kodai Wada
PHOTO:Suguru Tanaka
EDIT:Yohsuke Watanabe, Shiori Saeki (IN FOCUS)

  • Jリーグ執行役員/サスティナビリティ担当
    辻井隆行

    1968年生まれ、東京都出身。パートタイムスタッフとしてパタゴニアで勤務し、マーケティング部門、卸売り部門などを経て、その後は日本支社長に。2022年からJリーグの活動に携わるようになり、現在は執行役員としてサステナビリティ領域を担当している。

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